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ホロコースト偽情報がTikTok経由で教室に侵入——オランダの歴史教師たちの苦悩
社会 読了 3分

ホロコースト偽情報がTikTok経由で教室に侵入——オランダの歴史教師たちの苦悩

SNSとAIが生む「歴史の書き換え」に、現場の教師はどう向き合うか

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オランダの歴史・社会科の教室で、ホロコーストに関する偽情報が広がっている。NOS ストーリーズが国内のほぼ全中学校を対象に行った調査では、アンケートに回答した教師190人のうち111人——約6割——が、生徒から偽情報を持ち込まれた経験があると答えた。その多くがTikTokを介して拡散したコンテンツだという。

エルブルフの中学校で歴史を教えるマールテン・ポスト教師は、こんな場面を経験している。「生徒がTikTokの動画を見せてきて、第二次世界大戦中に殺されたユダヤ人は600万人ではなく27万1千人だと主張していた。本当か、と聞かれた」。ポスト教師はこうした問いを頭ごなしに否定するのではなく、対話の機会として受け止めているという。「AIやTikTokのせいで、何が本物で何が偽物かわからなくなっている。でも、その疑問を自分のところへ持ってきてくれることはとてもよいことだ。きちんと説明し、会話できる。偽情報を鵜呑みにすることと、疑問を持つことは違う」。

AIが歴史を書き換える

事態をさらに複雑にしているのが、AI生成による「歴史的」画像の氾濫だ。ワルンスフェルトの中学校に勤める歴史・社会科教師のヒース・コーレンブリクは、アウシュビッツを写した2枚の写真を使って生徒と同僚に実験を行った。1枚は実際の記録写真、もう1枚はAIで生成した偽の画像だ。偽の画像には、ユダヤ人が列車から穏やかに降ろされる場面が映っていた。実際には激しい暴力のもとで男女が即座に引き離されたにもかかわらず、だ。結果、半数以上が「本物」と「偽物」を逆に判断してしまった。「AIは新たな触媒になっている。学校も教師も、その対処に苦しんでいる」とコーレンブリクは語る。

ユトレヒト大学で哲学と倫理学を教えるフェデリカ・ルッソ教授も危機感を共有する。ルッソ教授が最近まとめたSNS上のフェイクニュースとディープフェイクに関する欧州規模の研究では、多くの大人でさえ本物と偽物の区別がほとんどできないことが示された。「ネットワーク内のインフルエンサーが動画を拡散すると、人々はその情報源がどれほど信頼できるかを気にしなくなる」。そして若い世代ではリスクはさらに大きいとルッソ教授は指摘する。「上の世代はSNSやインターネットが登場する前の時代を知っており、信頼できるジャーナリズムとそうでないものを区別できる。若い世代にはその判断基準が育っていない」。

教育現場と政策の対応

オランダ教育省はSNS上での偽情報の急速な拡散を「憂慮すべき事態」として認め、「生徒たちは何が起きたかを学ぶだけでなく、自分自身で事実と虚偽を見分ける力を身につける必要がある」との立場を示している。今年からはホロコースト教育に75万ユーロを追加拠出し、学校が博物館訪問などの体験活動を実施できるよう支援する方針だ。また、デジタル・リテラシーの専門機関「Expertisepunt digitale geletterdheid(デジタル読み書き能力専門センター)」の活用も各校に促している。

現場の教師たちはさらに踏み込んだ要求をしている。コーレンブリク教師とポスト教師はいずれも、歴史を再び必修の最終試験科目に戻すべきだと訴える。現在オランダの後期中等教育では、歴史は選択科目として外すことができる。「知識があってこそ偽情報と戦える。そこで歴史が果たす役割は非常に大きい」とポスト教師は言う。在蘭日本人の子どもたちも現地の学校に通う以上、こうした問題は無縁ではない。歴史リテラシーとデジタル・リテラシーを同時に問うこの課題は、オランダ社会全体が向き合わなければならない問いといえる。

情報源: NOS Algemeen

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