「幽霊通り」に取り残された高齢者――行政の計画変更が生んだ孤独と荒廃
再開発の棚上げで街は朽ち、残された住民は深刻な孤立へ
78歳のディックさんが暮らす通りは、かつて普通の住宅街だった。しかし今、その景色は一変している。空き家が立ち並び、庭には雑草が伸び放題。窓には板が打ち付けられ、建物の壁には湿気とカビの跡が広がる。地元メディアの報道によれば、こうした状況を招いたのは自然災害でも経済的な衰退でもなく、自治体による再開発計画の「棚上げ」という行政の判断だった。
買い上げた住宅、消えた計画
事の発端は、自治体が地区の再開発を見据えて住民から住宅を買い上げたことにある。立ち退きに応じた住民たちは次々と新たな場所へと移り住んでいった。ところがその後、計画そのものが変更され、工事は当面実施されないことが決定。買い上げられた住宅の多くは空き家のまま放置される形となった。
残された住民にとって、この決定は二重の打撃となった。一つは、空き家が増えることで街並みが急速に荒廃したこと。湿気やカビは隣接する居住中の住宅にも侵食し、害虫や雑草の問題も深刻化している。もう一つは、長年かけて築いてきた近隣コミュニティが音を立てて崩れていったことだ。
「死んでも何日も気づかれないかもしれない」
ディックさんの言葉は、残された住民の置かれた状況を端的に物語っている。「もし隣のおばさんも去ってしまったら、自分がベッドで死んでいても何日間も誰も気づかないだろう」。高齢者にとって、近隣との日常的なつながりは単なる「交流」ではなく、安否確認の最後の砦でもある。その網の目が失われつつあることへの恐怖は、切実だ。
こうした孤立の問題はオランダ社会において近年、政策課題として認識されてきてはいる。しかしディックさんのケースが示すのは、孤立が個人の事情によるものではなく、行政の計画変更という「外部の決定」によって突然もたらされる場合があるという現実だ。本人に選択の余地はほとんどなかった。
行政の判断が問われる
再開発計画の見直しや棚上げ自体は、財政上の理由や社会状況の変化によって生じることがある。しかし、住民の生活環境や安全、精神的健康への影響を十分に考慮しないまま実行されれば、その代償は弱い立場の人々に集中してしまう。ディックさんの通りで起きていることは、都市計画と住民福祉のあいだに横たわる溝を、あらためて可視化している。
在蘭日本人にとっても、こうした問題は対岸の火事ではない。オランダでは近年、住宅不足を背景に各地で再開発や地区改修が進んでいる。自治体の計画がいかに住民の日常生活に直結しているか、そしてその計画が変更された際の影響がどこに及ぶかを、この事例はあらためて問いかけている。
情報源: AD



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