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住宅基礎補修費、補助金より自己資産の活用を——アムステルダム大研究者が提言
政治・行政 読了 3分

住宅基礎補修費、補助金より自己資産の活用を——アムステルダム大研究者が提言

12億ユーロの公的補助金計画に「非効率かつ不公平」と異論

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オランダでは、地下水位の低下や地盤沈下により木製杭の腐朽(パールロット)が進み、2050年までに推計42万5000軒の住宅が基礎補修を必要とするとされる。補修費は深刻なケースで1件あたり10万ユーロを超えることもあり、その総額は最悪のシナリオで540億ユーロに達するとの試算もある。住宅所有者団体「Vereniging Eigen Huis」や銀行、保険会社、建設業界、住宅公社連合「Aedes」などで構成する「基礎補修連合」は、10〜12年間にわたり年間10億ユーロ、計12億ユーロ規模の公的補助金による国家的対応を求めるパンフレットを公表している。

研究者が問う「誰が払うべきか」

こうした動きに異を唱えたのが、アムステルダム大学の政治経済学者イェンス・ファン・ト・クロースターと都市地理学者コーディ・ホフステンバッハの両氏だ。2人は経済誌ESBへの論文で、一般的な補助金制度は「非効率かつ不公平」だと結論づけた。その根拠として挙げるのが、住宅所有者が積み上げてきた莫大な含み益(overwaarde)だ。住宅所有者の87%はすでに10万ユーロ超の含み益を持っており、最悪のシナリオでも補修費総額540億ユーロに対し、含み益の総計は1兆3500億ユーロに上るという。ホフステンバッハ氏は「多くの住宅所有者は、たとえ高額の補修が必要になっても、追加ローンや借り換えで十分に対応できる」と述べる。また、42万5000軒すべてが直ちに高額の補修を要するわけではなく、「深刻なケースを前提に議論が進んでいる」と問題の前提自体にも疑問を呈している。さらに両氏は、なぜ賃貸住民や基礎問題のない住宅所有者を含むすべての納税者がコストを負担しなければならないのかと問う。住宅ローン利子控除など国が長年にわたり持ち家取得と資産形成を後押ししてきた経緯を踏まえれば、まず自己資産を活用するのが筋だという立場だ。

業界団体と研究者の対立、焦点は困窮世帯への支援

これに対し、Vereniging Eigen Huis は研究者の結論を「誤解を招くもの」と批判する。基礎問題が多い地区は、低所得世帯が集まる老朽住宅街と重なりやすく、エネルギー費の高騰なども重なって家計は既に逼迫しているという。また、基礎リスクのある物件には銀行が融資に慎重なケースも多く、「含み益は帳簿上の資産に過ぎず、実際には現金化できない」との指摘も根強い。保険業界団体「Verbond van Verzekeraars」も補助金制度の設立を支持し続けている。地下水位は住宅所有者自身が制御できる問題ではなく、その低下が行政の政策判断に起因している以上、国が一定の補償責任を負うべきだという論理だ。研究者側もすべての支援を否定しているわけではなく、困窮世帯には直接補助金でなく有利な低利融資を提供し、返済困難な場合には最終的に債権を免除する仕組みが現実的だと提案している。ファン・ト・クロースター氏の試算によれば、即時移転が必要かつ自力での対処が難しい世帯は全住宅所有者の約1%未満にとどまると見られ、「対象を絞った支援なら桁違いに安くなる」と強調する。

オランダ社会への広がりと気候変動の文脈

この論争は、単なる財政論にとどまらない意味を持つ。ファン・ト・クロースター氏は「気候変動は今後数十年で住宅価値に大きな影響を与える。財政的なコストが現実のものとなった今こそ、社会全体が気候変動をより長期的な視野で捉え直す契機になりうる」と述べる。誰が費用を負担するかという問いは、リスクをどう社会で分かち合うかという、より根本的な問いにつながっている。オランダ在住の日本人にとっても、住宅購入や長期居住を検討する際には、基礎リスクの情報開示や将来的な補修コストの負担の在り方が変わりうる論点として、今後の政策動向を注視しておく価値がある。

情報源: NRC

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